匠の蔵~words of meister~の放送

開工房【別府つげ細工 大分】 匠:安藤光平さん
2014年05月31日(土)オンエア
『つげ』や『黒檀』、『紫檀』などの樫木に彫刻を施す、大分県別府市発祥の伝統工芸『別府つげ細工』を製作する『開工房』の安藤光平さん。『別府つげ細工』の創始者とされる安藤一平さんの孫である安藤さんは、細かい彫刻技術を巧みに施した『帯留め』や『かんざし』、『ブローチ』などのアクセサリーの他、シンプルなデザインの『大皿』や『ぐい飲み』などの器も製作。他の追随を許さない圧倒的な技術で、人々を魅了する。
「工房を開く以前は、家具の彫刻やバターナイフなどのクラフト製品の製造に携わっていたんですが、それらの仕事に求められる丁寧さを、『つげ細工』の世界に持ち込もうと思ったんですよね。例えば、私はブローチの裏にも彫刻を施すのですが、それは身に着けた人が、少しでも軽いイメージを持てるからです。実際の重量はそんなに変わらないのですが、背面に凹凸があることで、見た目は随分、軽くなりますからね」。その安藤さんがひと手間、ふた手間を加えることで生まれる凹凸は、見た目の軽さだけではなく、木の美しさまでも最大限に引き出していた。
「私は上手に上手く作るより、丁寧に作りたいんですよね。私の『つげ細工』はアクセサリーが多いのですが、女性が身に着けた時に、どのように映るのかをイメージしながら作ると、やはり細かな部分まで手を抜けないんですよね。それが問屋さんや小売店などにモノを卸すと、丁寧に作ると少し値段が高くなるので、『お客さんはそこまで分からないから、丁寧にしなくてもイイ』と言われるんですよ。だから『そこまで手を入れなくて安い値段で作ってくれ』と必ず言ってくるんですが、私はそれがイヤなんですよね。やはり手間暇をかけて、丁寧なモノを作って、正当な値段のモノを売りたいと。大量生産で、安かろう悪かろうというモノを作るのは、仕事として面白くありませんからね」。モノでも食べ物でも、使う人や食べる人の喜ぶ姿を想像すれば、おのずと気持ちが入り、その仕事は丁寧になる。しかし、見えない部分まで丁寧にという仕事は、いかにも日本人的な美学、日本人的な粋というモノだろう。
「例えば飾り棚がありますよね。それが日本製か中国製かを見分ける方法は、引き出しの中に手を入れて、上の部分を触れば分かるんですよ。殆どのモノが、上を触ってザラザラしていたら中国製で、ツルツルしていたら日本製なんですよね。中国製は製材したそのままなことが多いんですが、日本製は大体、裏まで鉋をかけているんですよね。そんな見えない部分にまで手を入れるというのが、やはり、日本人の心ですよね」。座右の銘に『誠実』を掲げ、まさに誠実に、見えない部分まで丁寧に手を入れることを忘れない安藤さん。その手仕事の粋を極めた安藤さんの丁寧な仕事から生まれるモノたちは、『別府つげ細工』の伝統に新たなページを加えていた。

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