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ムコ多糖症ニホンザルの臨床徴候改善に成功

国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学

―組換えカイコと糖鎖改変技術による新型酵素―

2025 年 4 ⽉ 30 ⽇
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

ムコ多糖症ニホンザルの臨床徴候改善に成功 ―組換えカイコと糖鎖改変技術による新型酵素―

概要
 ライソゾーム病はライソゾーム酵素の遺伝的欠損を原因とする疾患群です。一部のライソゾーム病に対しては、哺乳類細胞株で産生した組換えヒト酵素を静脈内投与する酵素補充療法が臨床応用されています。しかしながら、組換えライソゾーム酵素を大量に生産する必要があるため、より低コストかつ安全な生産系が求められています。
 京都大学ヒト行動進化研究センターの大石高生准教授、徳島大学大学院薬学研究科の篠田知果博士前期課程学生(当時)、同大伊藤孝司名誉教授、川崎医科大学の北風圭介助教らの研究グループは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、国立医薬品食品衛生研究所、株式会社伏見製薬所、金沢大学、兵庫県立大学、自然科学研究機構、岐阜大学、神戸薬科大学との共同研究により、遺伝子組換えカイコ(注1)で産生したヒトライソゾーム酵素のN型糖鎖をエンドグリコシダーゼ(注2)により改変し、ムコ多糖症(注3)Ⅰ型ニホンザルの臨床徴候を改善することに成功しました。この研究成果はライソゾーム病に対する高機能型の治療用酵素の開発に繋がることが期待されます。
 本成果は2025年4月18日に国際学術誌「Communications Medicine」にオンライン掲載されました。

 
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202504308147-O2-4VfhR2eG
酵素を遺伝子組換えカイコに作らせ、糖鎖改変によって機能を向上させた。
この酵素をヒト行動進化研究センターで発見されたムコ多糖症I型ニホンザルに投与すると徴候が改善した。

1.背景
 グリコサミノグリカン(GAG)であるデルマタン硫酸やヘパラン硫酸はライソゾーム酵素であるα-L-イズロニダーゼ(IDUA)によって分解されます。ムコ多糖症Ⅰ型(MPS I)は、IDUA遺伝子の変異によって引き起こされるライソゾーム病であり、デルマタン硫酸やヘパラン硫酸が細胞内外に過剰に蓄積し、全身性の臨床症状を引き起こします。MPS Iに対する治療法の一つは、哺乳類細胞株で産生した組換えヒトIDUA(一般名:ラロニダーゼ)を静脈内投与する酵素補充療法です。しかしながら、組換えライソゾーム酵素を大量に生産する必要があるため、より低コストかつ安全な生産系が求められています。

2.研究手法・成果
 本研究グループは遺伝子組換えカイコ発現系を用い、カイコ繭から組換えヒトIDUAを大量に抽出・精製することに成功しました。精製IDUAにはライソゾーム酵素の細胞内取り込みに必要なマンノース6-リン酸(M6P)含有N型糖鎖は含まれていなかったことから、エンドグリコシダーゼを用いてN型糖鎖を改変したM6P型IDUA(M6P-IDUA)を調製しました。また、近年ムコ多糖症VII型の治療用酵素であるベストロニダーゼ・アルファでは、酵素に付加されたシアル酸含有N型糖鎖が細胞内取り込みや薬物動態を改善することが示唆されていることから、シアル酸型IDUA(SG-IDUA)も調製しました。一方、京都大学ヒト行動進化研究センターで集団継代飼育されているニホンザル群の中から、軽症/中間型MPS Iの臨床徴候を示す個体を発見し、IDUA遺伝子のミスセンス変異(一塩基変異)を同定しました。さらに、MPS IニホンザルにM6P-IDUAあるいはSG-IDUAを静脈内投与することで、尿中GAGを減少させ、臨床徴候を改善させることに成功しました。以上から、遺伝子組換えカイコとエンドグリコシダーゼの組み合わせは、機能的なN型糖鎖を有するデザイナー糖タンパク質(ネオグライコ酵素)を生産するための有望なアプローチであると考えられます。

3.波及効果、今後の予定
 エンドグリコシダーゼ処理はコストパフォーマンス面の改善が必要です。今後、遺伝子組換えカイコに哺乳類型糖転移酵素遺伝子群を導入することでN型糖鎖構造をヒト型化し、低コストでのヒト糖タンパク質製造プラットフォームを構築したいと考えています。また、MPS Iニホンザルはヒトと共通した原因・症状・治療法の条件を満たす疾患モデルと考えられることから、遺伝子治療法などの開発研究にも応用したいと考えています。

4.研究プロジェクトについて
 本研究は京都大学ヒト行動進化研究センター、徳島大学、川崎医科大学、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、国立医薬品食品衛生研究所、株式会社伏見製薬所、金沢大学、兵庫県立大学、自然科学研究機構、岐阜大学、神戸薬科大学の共同研究で行われました。
 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(26293120, 17H04102, 18K06442)、農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究「蚕業革命による新産業創出プロジェクト」、AMED 創薬基盤推進研究事業(JP18ak0101074)、AMED橋渡し研究戦略的推進プログラム(A-187)、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果最適展開支援プログラム A-STEP(JPMJTM17DB)、公益財団法人 水谷糖質科学振興財団、株式会社伏見製薬所、一般社団法人 予防衛生協会 NHP-A研究助成事業および共同利用・共同研究拠点 京都大学霊長類研究所の支援を受けました。また、学術系クラウドファンディングサイトacademist(アカデミスト)において、「組換えカイコでリソソーム病の治療薬をつくりたい!」を実施し、支援を受けました(https://academist-cf.com/projects/31/)。柴藤亮介氏ならびに71名のサポーターの皆様方(秋山武之様、大川原千代子様、太田尚志様、神崎誠一様、関根隆志様、高橋宏之様、山田友理子様、日本ムコ多糖症研究会、日本ムコ多糖症患者家族の会、他)に御礼申し上げます。

<用語解説>
注1 遺伝子組換えカイコ
遺伝子組換えカイコは繭の中に有用なタンパク質を分泌させることが可能です。交配により維持・増殖することができ、本邦では大量飼育技術が確立されていることから、高安全性・低コストの組換えタンパク質生産系として注目されています。

注2 エンドグリコシダーゼ
糖鎖内部のグリコシド結合を分解する酵素です。その変異体を用いることで、糖タンパク質に結合したN型糖鎖を別のN型糖鎖に挿げ替えることができます。本研究では糖鎖切断活性の高いEndo-D、糖鎖転移活性の高いEndo-M N175Q変異体および両活性を有するEndo-CC N180H変異体を用いました。

注3 ムコ多糖症
ムコ多糖を分解するライソゾーム酵素が生まれつき欠損することで全身の細胞にムコ多糖が蓄積する疾患です。ムコ多糖症Ⅰ型は重症型(ハーラー病)、軽症型(シャイエ病)および中間型(ハーラー/シャイエ病)に分類されます。

<研究者のコメント>
「ヒト行動進化研究センターでは、疾患モデル霊長類を用いた病態研究などを進めています。ムコ多糖症I型の新規治療法開発を目指したこの共同研究は、共同責任著者である伊藤孝司先生のクラウドファンディングがきっかけで始まりました。今後はモデル霊長類を活用して、遺伝子組換えカイコと糖鎖改変を組み合わせたさらなる新規酵素を用いる治療法や遺伝子治療など、遺伝性疾患のよりよい治療法の開発に貢献したいと考えています。」(大石高生)

<論文タイトルと著者>
タイトル:
N-glycan-modified α-L-iduronidase produced by transgenic silkworms ameliorates clinical signs in a Japanese macaque with mucopolysaccharidosis I.(遺伝子組み換えカイコで産生したN型糖鎖改変型α-L-イズロニダーゼはムコ多糖症I型ニホンザルの臨床徴候を改善する)
著  者:
篠田知果#、北風圭介#、佐々井優弥、西岡宗一郎、小林功、笠嶋めぐみ、立松謙一郎、飯塚哲也、原園景、三谷藍、兼子明久、今村公紀、宮部貴子、郷康広、平田暁大、竹内美絵、水野輝、桐山慧、月本準、灘中里美、石井明子、木下崇司、北川裕之、鈴木康之、大石高生*、瀬筒秀樹、伊藤孝司*(#は共同筆頭著者、*は共同責任著者)
掲 載 誌:Communications Medicine  DOI:10.1038/s43856-025-00841-7





プレスリリースURL

https://kyodonewsprwire.jp/release/202504308147

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