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日本の“火山活動の最盛期”の起源を解明
国立研究開発法人産業技術総合研究所
ポイント
・ 日本列島から朝鮮半島までの広範囲にわたって、白亜紀~古第三紀の火成岩に含まれる元素の同位体組成のデータベースを作成
・ イグニンブライト・フレアアップの発生直前に、日本列島の地下に熱いマントルが流れ込んできたことを発見
・ プレートテクトニクスとマグマ活動の関連性の理解に貢献
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202508284240-O1-9bl5EJ19】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質情報研究部門 山岡健 研究員、佐藤大介 主任研究員、三國和音 研究員、および東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 諸星暁之 大学院生による研究チームは、日本列島と朝鮮半島に分布する火成岩に含まれる元素の同位体組成から、白亜紀~古第三紀の日本列島におけるイグニンブライト・フレアアップの発生要因を解明しました。
イグニンブライト・フレアアップは、大規模なカルデラ形成噴火が、同じ地域の中で地質学的に短期間のうちに集中して発生する現象を指します。この現象は過去に世界各地で確認され、日本列島では白亜紀後期から古第三紀初頭(約9000万年前から約6000万年前)にかけて発生したことが知られています。大規模なカルデラ形成噴火の頻発は地球表層環境に大きな影響を及ぼしうる現象ですが、その発生要因は諸説あり、明確には解明されていません。
今回、日本列島と朝鮮半島に分布する白亜紀から古第三紀にかけての火成岩に含まれるストロンチウム(Sr)とネオジム(Nd)の同位体組成について、これまでに報告された多数の研究結果を統合・整理して、マグマの同位体組成が約1億年前を境に急激に変化したことを明らかにしました。また、関連するマグマの化学組成の時間変化と、当時の岩石の形成場がどのように対応するのかを調べました。
その結果、日本におけるイグニンブライト・フレアアップは、その直前に、熱いマントルが大陸プレートの下底部に流入してきたことで発生したことが示されました。この熱いマントルの流入は、大陸プレートの底に広がっていた古い海洋プレートの端がマントル側にめくれるように変形する「スラブ・ロールバック」の影響が日本に到達したことによって引き起こされたと考えられます。この結果を踏まえ、環太平洋地域をはじめとする世界各地で発生したイグニンブライト・フレアアップの発生原因の解明が期待されます。
なお、この研究の詳細は、2025年9月2日に「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250903/pr20250903.html )をご覧ください。
研究の社会的背景
日本海が形成される約3000万年前より前、現在の日本列島が位置していたユーラシア大陸の東縁部では、白亜紀後期から古第三紀初頭(約9000万年前から約6000万年前)にかけて、時間的・空間的に集中して大規模なカルデラ形成噴火が発生する現象「イグニンブライト・フレアアップ」が起きました。イグニンブライト・フレアアップは世界各地の沈み込み帯で報告されている現象ですが、現在の地球上では観測されていないことに加え、その発生メカニズムには諸説あり、発生要因は解明されていません。大規模なカルデラ形成噴火は大量の火砕物や火山ガスの放出を伴うため、気候や社会に大きな影響を及ぼします。このような巨大噴火の頻発現象がどのような条件で発生するかを解明することは、長期的な視点から人類や社会が直面しうる自然災害の脅威を理解・予測するために重要です。
研究の経緯
イグニンブライト・フレアアップの発生メカニズムを解明する鍵となるのは、過去に発生したマグマ活動の痕跡である火成岩です。それらに含まれている元素の同位体組成には、マグマが最初に発生するマントルや地殻深部の情報のほか、地殻物質とマグマの混合程度の情報が記録されています。また、火成岩が示す同位体組成の時間的・空間的な変化を火山活動の痕跡と統合して解析することで、マグマの発生源やマグマ生成場の環境が火山活動とどのように関連しているかを調べることができます。
産総研では、火成岩や変成岩など地殻を構成する岩石が分布する地域の調査を通して、火成活動の履歴や地質構造の形成史を調べ、日本列島が位置する沈み込み帯の長期的変動と進化の解明に取り組んでいます。今回、SrとNdの同位体組成が盛んに分析されている日本列島や朝鮮半島における火成岩の分析データを統合・解析し、イグニンブライト・フレアアップの始まりから終わりまでのマグマ組成の時空間的な変化を調べました。
なお、本研究は、日本学術振興会の科研費「研究活動スタート支援(課題番号:23K19076)」による支援を受けています。
研究の内容
最初に、朝鮮半島で報告されている1億3000万年前から5000万年前の火成岩の形成時期を整理した結果、日本列島に近いものほどより新しい時代に形成されていることが明らかになりました。これに対し、日本列島の白亜紀の火成岩は、海洋プレートの沈み込む角度が変化することによって、朝鮮半島に近づくほど、より新しい時代に形成されています[1]。このことは、朝鮮半島と日本列島で同時期に、2つの異なるマグマ活動場が存在しており、白亜紀を通してそれらが徐々に近づく傾向にあったことを示しています(図1)。また、日本列島において、白亜紀〜古第三紀の大規模なカルデラ火山の痕跡は中部〜近畿〜中国地方で広く認知されています(図1)。本研究では、それらの形成時期と規模を集計することで、日本列島におけるイグニンブライト・フレアアップ発生が約9000万年前〜約6000万年前の期間に限定されることを明らかにしました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202508284240-O2-NVHJ60Qh】
次に、朝鮮半島と日本における各地の白亜紀〜古第三紀の火成岩について、SrとNdの同位体組成を報告している合計100以上の論文から約2,300サンプル分のデータを抽出し、それらを岩石の化学組成や形成時期と統合した網羅的なデータベースを作成しました。そして、このデータベースの解析により、岩石中のシリカ(SiO2)が60重量%以下の同位体組成はマントルの同位体情報として解釈できること、および、SiO2が60重量%以上ではマグマへの地殻物質の顕著な溶け込みを示す同位体組成の領域があること(図2緑色の点線で囲われた範囲)が明らかとなりました。そして、同じデータを、岩石の形成時期との関係で検討した結果、マグマの起源となるマントルの同位体組成が約1億年前を境に急激に変化したことが明らかになりました(図2B)。この変化は、日本列島でイグニンブライト・フレアアップが発生する直前に、大陸プレート直下に異なる起源のマントル物質が別の場所から流入したことを示しています。さらに、マグマに地殻物質が多く溶け込んでいる時期はイグニンブライト・フレアアップと一致し、このことは、イグニンブライト・フレアアップがマントルからの熱供給の増大と関連していることを示唆しています(図2B)。
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一方、朝鮮半島の火成岩が示す同位体組成は、大陸プレートの底にへばりつくように分布していた古い海洋プレートの端がマントル側にめくれるように変形する「スラブ・ロールバック」という現象によって、大陸プレート底部に向かって熱いマントルが流入したことに対応すると説明するのが定説です[2]。これを朝鮮半島の火成岩形成場の移動と組み合わせることで、白亜紀を通じて徐々に日本列島側に高温マントルの流入場所が近づいてきたと考えられます(図3)。
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以上の結果から、日本列島で白亜紀~古第三紀に発生したイグニンブライト・フレアアップは、朝鮮半島側から移動してきた熱いマントルの流入場所が日本列島の直下に到達したことで引き起こされたことが示されました。このことから、イグニンブライト・フレアアップは沈み込み帯の発達史において、必然的に発生するイベントではなく、外部要因によって引き起こされる現象である可能性が高いと考えられます。本研究の結果を踏まえ、環太平洋地域をはじめとする世界各地で発生したイグニンブライト・フレアアップの発生原因の解明が期待されます。
論文情報
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science
論文タイトル:Ignimbrite flare-up in Late Cretaceous–Paleocene Japan empowered by hot mantle inflow
著者:Ken Yamaoka, Tokiyuki Morohoshi, Daisuke Sato, Kazuto Mikuni
DOI:10.1186/s40645-025-00755-x
参考文献
[1] Yamaoka K. & Wallis S.R. (2023) Clockwise rotation of SW Japan and timing of Izanagi–Pacific ridge subduction revealed by arc migration. Progress in Earth and Planetary Science 10:62.
[2] Wu F.-Y., Yang J.-H., Xu Y.-G., Wilde S.A., Walker R.J. (2019) Destruction of the North China Craton in the Mesozoic. Annual Review of Earth and Planetary Sciences 47: 173–195.
用語解説
イグニンブライト
カルデラ形成噴火に伴うような大規模な火砕流により堆積した火山灰などの粒子が,自身の重量と熱により互いに癒着(溶結)することで形成される地質体。
イグニンブライト・フレアアップ
火山弧においてマグマ生成量が一時的に増加し,多量のイグニンブライトの形成を伴うような大規模なカルデラ噴火が頻発する現象。
カルデラ形成噴火
大きな円形の陥没地形を伴って多量のマグマが短時間にマグマ溜まりから流出するような噴火。
ストロンチウム(Sr)・ネオジム(Nd)の同位体組成
ストロンチウム(Sr)は地球の岩石に微量に含まれる元素であり,4種類の同位体が存在する。中でも,マントルや地殻の内部で発生したマグマにおいて,87Srと88Srの比はその起源物質の違いによって異なる値を示すため,地質学で頻繁に用いられる。同様に,ネオジム(Nd)は7種類の同位体が存在し,143Ndと144Ndが火成岩の起源物質の違いを調べるために用いられる。
スラブ・ロールバック
海洋プレートがプレート境界で沈み込む際,沈み込んだプレート(スラブ)が傾斜方向のみならず下方へ沈む運動。プレートの折れ曲がり部分の移動および/または沈み込み角度の増大を伴う。
火成活動
マントルや地殻でのマグマの発生や移動を伴う現象全体。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250903/pr20250903.html
プレスリリースURL
https://kyodonewsprwire.jp/release/202508284240
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