2008年9月アーカイブ

9/28「小原さんの日時計」

太陽の位置で時刻を知ることができる日時計。
小原(おはら)銀之助さんは、1983年に亡くなるまでの29年間におよそ400基の日時計を作り、「日時計の王様」と呼ばれました。

若い頃、出版社で美術全集の編集をしていた小原さんは、外国の庭園美術の一つとして紹介されている日時計にいつしか魅せられ、天文学や数学の本を読みあさって研究に没頭していきました。
正確な日時計を作るためには、設置する場所の緯度・経度の測定から太陽の動き方まで、複雑な計算が欠かせません。
試行錯誤した末にやがて彼が完成させたのは、日時計の台座に日本標準時との時差を示す5分刻みの目盛り盤を取り付けたもの。
同じ日本でも太陽が真上に来る時間は場所によって違うので、日時計が示す正午の時間も場所によってずれます。
ところが、この日時計には、その場所の太陽が示す時間だけではなく、全国標準時も知ることができるのです。
1973年、この日時計がドイツのハンブルグに設置される と、その正確さが評判となり、世界で一番正確な日時計作家としてギネスブックにも載りました。

この小原式日時計にはもうひとつの特徴があります。
それは、日時計の先に、小さな地球儀を取り付けたこと。
その地球儀にはその時の地球と同じように太陽の光が当たるようになっています。
子どもたちに天文の話をするのが大好きだった小原さんのアイデアです。

地球儀付きの日時計を見ることによって、自分の今も世界の今も目で見て興味を持つきっかけになる小原さんの日時計。
子どもたちに、自分だけでなく地球全体をひとつの家や家族と感じてほしいという願いがあったのかもしれません。

9/21「パリ発・久留米絣 」

今日9月21日は、「ファッションショーの日」。
これは、1927年、銀座の三越呉服店で日本初のファッションショーが行われたことに由来しています。
ファッションショーといえば、流行の最先端といったイメージがありますが、来月パリで開催されるのは、200年の伝統をもつ久留米絣のファッションショーです。

久留米絣を世に生み出した創始者は、井上伝(でん)です。
1788年に久留米で誕生し、幼いころから縫い物が大好きだった伝は、偶然にも自分の着物の色がこすれ落ちて白い斑点模様になっていることを発見します。
彼女は「藍色の着物に初めからこんな模様が入っていたら美しいのに」と考え、何年も苦労を重ね、白い模様の入った着物を織り上げて、その着物を「かすり」と名付けました。
当時は庶民にとって、着物でおしゃれをすることは珍しい時代。
絣の着物は、たちまち評判になります。
伝はこの技法を、機織りで家計を助ける知人や友人に次々と紹介し、多くの人から感謝されました。
「みんながこんなに喜んでくれるのなら」と、彼女は次に絵模様を入れることを思いつきますが、技術的に難しくなかなか成功しません。
それでも彼女はあきらめず、後にからくり儀衛門と呼ばれる久留米の発明王・田中久重(ひさしげ)に相談。
田中は伝の熱意に心を打たれ、美しい絵模様を織り出す機械を作ってあげました。

こうして絣の着物は、久留米の産業を支える伝統工芸として、さらに発展しました。
伝が40歳の頃には1000人以上の弟子が久留米絣の技術を学んでいたそうです。
小さな発見から生まれ、そのアイデアを惜しみなく人々に教えることで受け継がれてきた久留米絣。
パリでのファッションショーを誰よりも楽しみにしているのは、天国にいる井上伝かもしれません。

9/14「優先席」

熊本県の人吉盆地をのどかに走る「くま川鉄道」。
沿線にはいくつかの高校があり、朝夕の列車はその生徒たちでいっぱいになります。
ある日、その列車に一人のおばあちゃんが乗り込んできました。
車内は高校生でいっぱい。
座っていた一人の女生徒が声をかけ、席を立って、おばあちゃんを招きました。
その席は優先席ではありません。
たまたま乗り込んできたお年寄りに気づいたから声をかけたという感じです。
「ありがとう」とにっこり言って座るおばあちゃん。
その後、席を譲った女生徒はそのままおばあちゃんの前に立ち、きょうは試験日で早く下校したから昼間の列車が混んでいることをおばあちゃんに説明し始めました。
特に知り合いというわけでもないようです。
そのうち、座っているおばあちゃんを中心にして周りの高校生たちと話の輪ができ、なんだか盛り上がっている様子。
それが、ある日のくま川鉄道の列車の中の出来事です。

電車やバスにはお年寄りやハンディをもつ人などのために優先席があります。
当たり前のことだと思いがちですが、じつは、譲り合いや思いやりといった人間本来の気持ちから弱い立場の人を守るべきであって、座席を区切って優先席という枠をつくるのはおかしい、という意見もあります。
実際、すべての車両のすべてのシートが優先席だとみなし、優先席をなくしてしまった鉄道会社もあります。
また、そうしたところが「席を譲ってもらえなくなった」というクレームが相次ぎ、仕方なく再び優先席を設定した鉄道会社もあります。

しかし、くま川鉄道のような風景が、全国の電車やバスに広がって、全てのシートが優先席という考えを利用者が持つようになると理想的ですね。

9/7「棚田を守る」

四季折々に美しい風景を織りなす「棚田」。
山の傾斜を利用して作物を育てようと、先人の知恵と苦労によって開発されましたが、近年では農家の高齢化や後継者問題が深刻化し、全国各地でオーナー制度を採用する動きが進んでいます。

福岡県うきは市の「つづら棚田」もそのひとつ。
オーナーは年会費を支払って棚田の一区画を借り受け、5月の田植えから田んぼ仕事を体験し、秋には自分で収穫したお米を受け取ります。
それだけではありません。
農家の人々と一緒に、ちまき作りを体験したり、お米と一緒にうきは市特産のフルーツを送ってもらったり、地域ならではの恵みも味わうことができます。

今年は都会から92組の参加者があり、幼い頃の体験を懐かしむ熟年ご夫婦や、初めての農作業に大はしゃぎの子供たちの姿も見られました。
来週末はいよいよ待ちに待った収穫祭。
つづら棚田は黄金色(こがねいろ)の稲穂を刈り入れた後も、真っ赤な彼岸花が一面に咲き誇ることでも有名で、今月19日から23日まで開催される「彼岸花めぐり」には、たくさんの観光客が訪れます。
また、オーナー制度を取り入れた棚田農家の人々も、毎年、孫みたいな子供たちが訪れたり、新米を口にした時の感動の声が届いたりすることで、来年もがんばろうという活力が湧いてくることが何よりうれしい、と口を揃えます。
こうした取り組みは、全国棚田サミットで報告され、農家の人々の貴重な情報交換の場にもなっています。

サミットは毎年、日本棚田百選に選ばれた町による持ち回りで開催。
今年のメイン会場となるのは、長崎市と雲仙市です。

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