2017年8月アーカイブ

2017年8月26日「平和の華」

八月最後の週末、ゆく夏を惜しむように各地で花火大会が開かれています。
花火が華やかに打ち上げられるようになったのは江戸時代のことですが、花火といえば火薬。
戦乱の時代は鉄砲や狼煙などに用いる戦いの道具でした。

関ヶ原の戦いから60年ほど後に江戸日本橋に花火屋を開き、幕府ご用達の花火師となった初代鍵屋弥兵衛も火薬製造の技術から花火を考案したといわれ、花火師と打ち上げ花火の誕生は泰平の世が訪れたことを象徴するものでした。

八代将軍徳川吉宗の時代には、享保の大飢饉の中、江戸でコレラによって多くの死者が発生したことから、亡き人々の供養と悪疫退散を願って隅田川で花火が打ち上げられ、花火は人々を慰め力づけるものへと発展していったのです。

時代は変わり、終戦後の昭和23年。
隅田川で開かれていた花火大会は戦時中から中断され、戦後はGHQによる火薬の規制によって中断されたままでしたが、花火製造業者を中心とする人々の粘り強い働きかけによって11年ぶりに復活。
打ち上げられた花火は僅か600発でしたが、観客は70万人に上ったと言われ、人々の心に平和の華を咲かせたのです。

花火師達が育んできた花火は、様々なことがあったこの夏も、多くの人々の心を癒やし励ましています。

2017年8月19日「喧嘩するほど仲がいい」

『南総里見八犬伝』は滝沢馬琴が28年をかけて書き上げた大長編物語。
馬琴は江戸時代のベストセラー作家です。
そして馬琴が書いた数々の作品に挿絵を描いたのが、かの浮世絵師・葛飾北斎でした。

江戸時代の小説の挿絵は、作者がこういう絵を描いてほしいと絵師に指示するのですが、馬琴の絵に対する指示はこだわりが多く、厳しいものでした。
ところが北斎も絵師としての自信が強く凝り性だったので、馬琴の指示に従わず、自分の美学にこだわって描いたため、二人はいつも衝突していたのです。

たとえばある作品では、馬琴が書いた話の内容に関係なく北斎が勝手に狐の絵を描き、「これじゃ俺が狐にだまされているみたいだ」と馬琴が怒ったり、
登場人物が草履を口にくわえる場面があるので、それを絵にしてほしいと馬琴が頼むと、「そんな汚い絵が描けるか!だったら自分で実際に草履をくわえてみやがれ」と北斎が怒ったり。

とにかく衝突してばかりの滝沢馬琴と葛飾北斎ですが、二人が不仲だったかというと、そうでもありません。
引越し好きの北斎が馬琴の家に転がり込んで、4か月も勝手に居候していたこともありました。

面と向かっては喧嘩ばかりする二人ですが、お互いに本人がいないところでは、相手の絵や文章を誉め讃えていたのです。

世界の発明王と呼ばれるトーマス・エジソン。
エジソンは一度も日本を訪れたことはないのですが、日本の文化や風習に対して深い理解を示していました。
そのきっかけになったのが、エジソンの研究所で6年間働いた一人の日本人青年の存在です。

彼の名は岡部芳郎(おかべよしろう)。
山口県の商船学校で航海士として勉強していましたが、明治39年、太平洋での実習航海中に体調を崩してニューヨークで下船。そのまま米国に残ることになり、エジソンの研究所に身を寄せたのです。
岡部はエジソンの助手として蓄音機の改良をはじめ、実験機械の設計や製図、電池自動車のモーターの研究などに取り組みました。
その熱心で真面目な仕事ぶりをエジソンは大いに気に入り、仕事だけではなく家にも招いて公私にわたる交流をしています。

エジソンは岡部についてこんな言葉を残しています。
「私の子供たちはしょっちゅう私の周りから金品を勝手に持ち出していくが、この日本の青年はテーブルの上にお金が置いてあっても手をつけることなどまったくない。彼は誠実さと強さ、そして優しさを持っている誇るべき日本人だった」

エジソンは84歳で亡くなるまで研究一筋で、それ以外のことには興味を示しませんでしたが、晩年 愛読していたのは、新渡戸稲造の『武士道』など日本の書籍だったそうです。

2017年8月5日「愛がない座席」

飛行機のトリビアをひとつ。
旅客機の座席番号は、前から後ろに1・2・3と数字が、左の窓側から右にA・B・Cとアルファベットが割り当てられています。

500人前後の乗客を運ぶ大型旅客機を見てみましょう。
横幅が広い機内には通路が2本あり、左の窓側からABC、通路を挟んで中央列がDEFGとアルファベット順に進んでいきますが、もう1本の通路を挟んだ右側3席はHIJではなくHJK。HとJの間の「I」が抜けているのです。
その理由はアルファベットの「I」の文字が数字の「1」とまぎらわしいため。
座席番号に「I」を使わない、これは世界の航空会社でほぼ常識となっているのです。

旅行代理店のカウンターに1組のカップルがいます。
結婚を控えた二人は、先日新婚旅行の手配を依頼したのですが、送られてきた飛行機のチケットについてクレームをつけに来たのです。
二人の座席指定は「H」と「J」。「新婚旅行のカップルなのに、どうして席を隣同士にしてないのか!」とお怒りのご様子です。
対応したカウンターのスタッフはチケットを眺めて、にっこりと二人に説明しました。
「ご心配には及びません。お二人の間にアイはありませんから」

その言葉がカップルのお怒りにさらに火をつけてしまったのは言うまでもありません。

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